おはようございます。ヒラマリです。
これまで折に触れてお伝えしてきたフリーランス新法の概要が、昨晩、遂にお目見えしました~!
フリーランスに係る取引適正化のための法制度の方向性(内閣官房)
フリーランス協会で契約ルール整備の必要性を提言し始めてから足掛け6年。
このまま法案成立するかどうかは分かりませんが、これまでの長い道のりを考えると、感慨深いです。。。
フリーランスガイドライン策定を経て、昨年6月に立法が検討されはじめてからは1年ちょっと。
様々な職種・属性・バックグラウンドのフリーランスを対象に実態把握のためのヒアリングが行われ、当協会も意見交換させていただきました。
今回公開された概要は、これまでの長きにわたる提言を概ね汲み取っていただけた認識ですが、用語が分かりづらい部分もあります。まだ確定情報ではない前提で、なぜそのような方向性で検討されているのかといった背景も含め、少し掘り下げて解説してみたいと思います。
もっとも、先にお断りしておくと、一部のフリーランスや発注者にとっては既に当たり前に感じられることばかりで肩透かし感があるかもしれません。が、この新法はあくまで悪質なトラブルを防ぐためのもの。
立法化を求める一方で、フリーランスや発注者に負担を強いる規制で発注控えが起こってしまうと本末転倒なので、「ルールはできるだけゆるく、必要最低限の範囲で」ということも繰り返しお伝えしてきました。
私自身やフリーランス協会事務局メンバーも、発注者として他のフリーランスや企業と数多の取引をしてきているので、発注者の立場に立った時に窮屈さを感じる法律にならないように留意してきたつもりです。
まだ方向性レベルで決定事項ではなく、広く意見を募集中なので、下記の概要引用と解説をご覧になった上で、賛成や反対のご意見がある方は、文末リンクからパブコメをお願いします。
フリーランス新法 方向性のポイント
1.現状と課題
〇 創業の一形態として、従業員を雇わない、フリーランスの形態で仕事をされる方が我が国でも 462 万人と増加している。
〇 他方で、フリーランスは、報酬の支払遅延や一方的な仕事内容の変更といったトラブルを経験する方が増えており、かつ、特定の発注者(依頼者)への依存度が高い傾向にある。
〇 本年6月に閣議決定された「新しい資本主義のグランドデザイン及び実行計画」においても、フリーランスは、下請代金支払遅延等防止法といった現行の取引法制では対象とならない方が多く、取引適正化のための法制度について検討し、早期に国会に提出することとされている。
462万人という数字は、コロナが感染拡大する前(2020年2~3月実施)の内閣官房調査によるもの。コロナ禍で独立・副業に踏み出した人は多く、今はもっと増えていると考えられています。
どれだけのフリーランスが、どんなトラブルに遭っているのかについては、フリーランス協会でも政府でも、過去5年間で複数回にわたって実態調査を行っており、下請法の対象とならない発注者との取引が一定数を占めること、特定の発注者への依存度が高いフリーランスが結構多いことも見えてきました。
そんなこんなで新法です。
2.方向性
〇 フリーランスの取引を適正化し、個人がフリーランスとして安定的に働くことのできる環境を整備する。
〇 このため、他人を使用する事業者(以下「事業者」という)が、フリーランス(業務委託の相手方である事業者で、他人を使用していない者)に業務を委託する際の遵守事項等を定める。
フリーランス保護新法と言われてますが、目指すのはあくまで取引適正化で、(発注者に対して相対的に立場の弱い)事業者としての保護です。労働者保護ではありません。
当協会としては、フリーランスの定義には、個人事業主だけではなく、一人法人やすきまワーカーも含めてほしいとお伝えしてきています。
「他人を使用していない」については、アシスタントを雇っているフリーランスもいて、アシスタントがいる人は交渉力が強いわけでもないので、アシスタントが社保対象外であればフリーランスの定義に含めてほしいと思います。
(1)フリーランスに業務委託を行う事業者の遵守事項
(ア)業務委託の開始・終了に関する義務① 業務委託の際の書面の交付等
〇 事業者が、フリーランスに対して業務委託を行うときは、以下の事項を記載した書面の交付又は電磁的記録の提供(メール等)をしなければならない。
<記載事項>
・業務委託の内容、報酬額 等
〇 事業者が、フリーランスと一定期間以上の間継続的に業務委託を行う場合は、上記の記載事項に加え、以下の事項を記載しなければならない。
<追加記載事項>
・業務委託に係る契約の期間、契約の終了事由、契約の中途解除の際の費用 等※ ①については、他人を使用しない事業者が、フリーランスに対して業務委託を行うときも同様とする。
どこまでの業務を、いくらでやるのか、といったことが曖昧なまま仕事が始まったり、口約束しかしてなかったりで、後々トラブルや泣き寝入りになるのは、残念ながら「フリーランスあるある」です。
もともと口頭の約束でも契約は成立しているのですが、証拠がないと「言った言わない」の議論になってしまいます。そうしたトラブルを無くすため、フリーランスガイドラインが策定された後も、契約条件の明示だけは立法化してほしいと言い続けてきました。契約条件を客観的に確認することさえできれば、万が一トラブルがあった場合に取り得る対策がいろいろ整備されてきているからです(フリーランス・トラブル110番、フリーガルなど)。
とはいえ、小難しい言葉を並べた契約書にハンコを押すのは双方負担だし、その必要は必ずしもないと考えています。「電磁的記録の提供(メール等)」もOKなので、メールやチャット等のテキストで条件を確認した履歴が残っていれば大丈夫だと思われます。(発注者が口頭でしか業務内容を説明してくれない場合は、それを自分で箇条書きにして「こちらでお間違いなければお返事ください」とメールで送り、「はい」と一言返事をもらっておくような形でもOKとして頂きたいと思っております。)
※印についてですが、フリーランス同士の契約トラブルも結構多いので、発注者がフリーランスの場合も契約条件明示をするようになるのは賛成です。発注者側もお願いした仕事をちゃんとやってもらえないと困るので、「言った言わない」を無くすことは、受注者だけではなく、発注者の自己防衛にもつながります。
なお、大前提として、契約はお互いが合意してはじめて成立するのであって、一方的に条件提示されても、内容や条件に納得がいかなければ、無理にその条件を飲む必要はありません。
② 契約の中途解約・不更新の際の事前予告
〇 事業者は、フリーランスと一定期間以上の間継続的に業務委託を行う場合に、契約を中途解除するとき又は当該契約の期間満了後にその更新をしないときには、原則として、中途解除日又は契約期間満了日の 30 日前までに予告しなければならない。
〇 フリーランスからの求めがあった場合には、事業者は、契約の終了理由を明らかにしなければならない。
フリーランスは自分のキャパシティと相談しながら身一つで仕事をしています。他の仕事を断ってスケジュールを空けていた仕事が突然無くなると、見込んでいた収入がまるっと消えて、その分を他の仕事でリカバーすることもできなくなるので、できるだけ早めに知りたいですよね。
「原則として、30日前予告」なので、何が何でも30日前予告しないと法令違反ということではありません。
「次のような契約違反があれば即刻中途解除」として契約違反の具体例を挙げる、「双方の合意があれば即刻中途解除もできる」とするなど、30日以内でも契約解除できる条件を取り決めておけば、お互いリスクヘッジとなり安心かと思います。
(イ)業務委託の募集に関する義務
① 募集の際の的確表示
〇 事業者が、不特定多数の者に対して、業務を受託するフリーランスの募集に関する情報等を提供する場合には、その情報等を正確・最新の内容に保ち、虚偽の表示・誤解を生じさせる表示をしてはならない② 募集に応じた者への条件明示、募集内容と契約内容が異なる場合の説明義務
〇 募集に応じて業務を受託しようとするフリーランスに対しては、上記(ア)①に準じた事項を明示しなければならない。
〇 事業者が、上記により明示した事項と異なる内容で業務委託をする場合には、その旨を説明しなければならない。
「不特定多数の者に対して募集」とは、クラウドソーシングやメディア型仲介事業者、SNS等での求人が想定されるかと思いますが、募集に対して提案・稼働してみたら全然書いてあった条件と違った、みたいな釣り案件の嘘はダメですよということですね。
ただ、募集から契約締結に至るまでに条件が変わることは当然あるので、その場合は業務委託が始まるまでに、ちゃんと説明してもらうことが大事かと。
(ウ)報酬の支払に関する義務
〇 事業者は、フリーランスに対し、役務等の提供を受けた日から 60 日以内に報酬を支払わなければならない。
この支払期限については、守るのが難しいケースもあるのではないかとお伝えしています。公共事業の受託をしている会社が孫請けとしてフリーランスに発注する場合、入金される年度末を待ってから孫請け先に支払うことなどが想定されます。
期限について双方合意していれば、必ずしも60日以内でなくても良い気もするのですが、立場の弱いフリーランスだと「3年以内のどこかで支払うね」という条件を突き付けられてNOとは言えないんじゃないかという意見もあり、悩ましいところです。
(エ)フリーランスと取引を行う事業者の禁止行為
〇 フリーランスとの一定期間以上の間の継続的な業務委託に関し、①から⑤までの行為をしてはならないものとし、⑥及び⑦の行為によって、フリーランスの利益を不当に害してはならない。
① フリーランスの責めに帰すべき理由なく受領を拒否すること
② フリーランスの責めに帰すべき理由なく報酬を減額すること
③ フリーランスの責めに帰すべき理由なく返品を行うこと
④ 通常相場に比べ著しく低い報酬の額を不当に定めること
⑤ 正当な理由なく自己の指定する物の購入・役務の利用を強制すること
⑥ 自己のために金銭、役務その他の経済上の利益を提供させること
⑦ フリーランスの責めに帰すべき理由なく給付の内容を変更させ、又はやり直させること
ここの内容は基本的に、フリーランスガイドライン(というか下請法)の延長線上にあるもので、さほど目新しいものではないかもしれません。
①~③は、「フリーランスの責めに帰すべき理由なく」なので、フリーランス側が事前にすり合わせていた仕様や条件を逸脱した場合や、客観的に誰が見ても契約前のコミュニケーションから期待されるクオリティを満たしていなかった場合などを除いて、一方的な受領拒否や報酬減額、返品などはNGとなるでしょう。
④については、「通常相場に比べ著しく低い報酬の額」とは何ぞやと気になる方もいるかと思いますが、ここは厳密に決め過ぎてしまうと、フリーランス自ら首をしめることにもなりかねないので注意が必要です。また、発注者側から「不当に定める」のがNGということなので、フリーランスが自らの意志で戦略的に値下げする、もしくは発注者の要望に応える自由を妨げるものではないと思います。
⑤~⑦は、書いてあるとおりですね。
なお、①~⑦いずれの場合も、「一定期間以上の間の継続的な業務委託」に限らず、単発の取引でも起こり得るトラブルです。一定期間をどう捉えるのかも気になるところです。
(オ)就業環境の整備として事業者が取り組むべき事項
① ハラスメント対策
〇 事業者は、その使用する者等によるハラスメント行為について、適切に対応するために必要な体制の整備その他の必要な措置を講じるもの等とする。
② 出産・育児・介護との両立への配慮
〇 事業者は、フリーランスと一定期間以上の間継続的に業務委託を行う場合に、フリーランスからの申出に応じ、出産・育児・介護と業務の両立との観点から、就業条件に関する交渉・就業条件の内容等について、必要な配慮をするもの等とする。
①のハラスメント対策については、フリーランスガイドラインでは触れられていなかったものの、2022年4月からすべての企業に義務化されたハラスメント防止措置の中で、フリーランスや就活生に対しても、労働者と同様に防止措置や相談対応を行うことが望ましいとされていました。それをそのままフリーランス新法にも取り込んだものと理解しています。(参考:2019年10月23日「ハラスメント防止指針の素案に関する緊急声明を出しました」)
②については、たとえば、長期の契約をしている途中で妊娠して契約満了前に出産することになった、出産を控えて絶対安静を言い渡された、家族の介護で急に付き添いが必要になった、といった場合に、納期変更や契約中途解除に応じてもらえず止む無く働き続ける、もしくは、一方的に契約を切られる、突然賠償請求されるといったことが起こらないよう、配慮を求めてきました。
万が一の時に働き方や業務内容、納期などの相談に柔軟に応じてもらえるのがベストではあるのでしょうが、発注者としても急に予定していた業務が滞ると困ってしまいますよね。そこで、契約締結時にあらかじめ、出産・育児・介護との両立で業務遂行が困難になった場合にどうするかを双方で確認して取り決めておく、という配慮でも良いのではないかとお伝えしていました。
(2)違反した場合の対応等
〇 事業者が、上記(1)の遵守事項に違反した場合、行政上の措置として助言、指導、勧告、公表、命令を行うなど、必要な範囲で履行確保措置を設ける。(3)フリーランスの申告及び国が行う相談対応
〇 事業者において、上記(1)の遵守事項に違反する事実がある場合には、フリーランスは、その事実を国の行政機関に申告することができる。
〇 事業者は、上記の申告をしたことを理由として、フリーランスに対して業務委託を解除することその他の不利益な取り扱いをしてはならない。
〇 国は、この法律に違反する行為に関する相談への対応などフリーランスに係る取引環境の整備のために必要な措置を講じる。
政府が法令違反がないかモニタリングして、当人同士が全く問題を感じていないところまで介入するようになると窮屈になってしまいます。実際にトラブルが生じた時や、発注者の法令違反で困った時に、こちらからアラートを出せる仕組みが良いと考えています。
また、冒頭に書いたとおり、あまりに厳しいルールを作ってフリーランスとの取引が敬遠されるのは本意ではありません。あまりに悪質な場合はさておき、基本的には行政として履行確保及び改善を促す仕組みがあれば、法令違反すなわち罰則ということでなくても十分意味があるのではないでしょうか。
以上、大変長くなってしまってごめんなさい!!(汗)
少しでも多くの方に関心を持っていただけたら嬉しいなと、想いが溢れてしまいました。
繰り返しになりますが、まだ確定事項ではありません。
フリーランス協会は、実態調査やヒアリング調査の回答に基づき、最大公約数の理想の形を目指して提言してまいりましたが、反映しきれていないご意見もあるかと思います。
直接政府に伝えたいご意見がある方は、ぜひ下記のリンクからパブコメをご提出ください。
また、逆に発注者の立場から反発意見も多く寄せられることが予想されるため、「この方向でぜひ進んでほしい」「こういう法律ができると助かる」と思ってくださった方も、ぜひ賛成の声をお送りください。(こういうのは反対したい時ほど積極的になりやすいのてすか、集まるのが批判的意見だけに偏ってしまうと、法案成立に影響してしまうかもなので)
せっかくここまで来たので、みんなでフリーランスが安心して働けるルールを実現できたら嬉しいです!!
「フリーランスに係る取引適正化のための法制度の方向性」に関する意見募集について
最後に、ここに至るまで、本当にたくさんの議員や政府担当者の方々が、私たちの声に真摯に耳を傾け、フリーランスが安心して働ける契約ルール整備に向けて、一歩ずつ地場固めをしてくださいました。
何度異動のご挨拶をいただいたか分からないくらい(笑)、なかなかに長い道のりでしたが、下記を振り返りながら、尽力してくださった担当者お一人お一人の顔が思い出されます。
この場を借りて、フリーランス関連政策に関わってくださったすべてのご担当者に、深く感謝申し上げます。
参考:これまでの道のり
2017年1月 フリーランス協会設立
https://blog.freelance-jp.org/20170125-688/
2017年8月 フリーランス協会、政府関係者とプレス向けに最初の問題提起
https://blog.freelance-jp.org/20170827-56/
2018年2月 公正取引委員会、独禁法の保護対象にフリーランスを含める
https://blog.freelance-jp.org/20180215-1508/
2018年3月 厚生労働省、「雇用類似の働き方に関する検討会」報告書を公開
https://blog.freelance-jp.org/20180330-1782/
2019年6月 厚生労働省、保護の検討対象と課題の優先順位を整理
2019年7月 内閣府、フリーランス実態調査を発表
2019年7月 フリーランス協会、下請法の無法地帯に関するYahoo記事がバズる
2019年8月 フリーランス協会、報酬トラブル弁護士費用保険「フリーガル」をリリース
https://blog.freelance-jp.org/20190816-5089/
2018年9月 厚生労働省、労政審の報告書でフリーランス保護に言及
https://blog.freelance-jp.org/20180907-2812/
2019年10月 フリーランス協会、「フリーランスの契約トラブル是正に向けた 各省庁の取り組み」プレス勉強会開催
2019年10月 フリーランス協会、契約トラブル実態調査を実施し、調査結果を政府に提出
https://blog.freelance-jp.org/20191003-5617/
2020年2月 内閣官房、公正取引委員会、厚生労働省、中小企業庁の四省庁が連携して、フリーランスの環境整備を行うことに
2020年2月 フリーランス協会、厚労省の雇用類似検討会で提言
https://blog.freelance-jp.org/20200214-7027/
2020年3月 フリーランス協会、自民党政務調査会の経済成長戦略本部で提言
https://blog.freelance-jp.org/20200325-7902/
2020年3月 フリーランス協会、自民党の競争政策調査会で提言
https://blog.freelance-jp.org/20200327-9874/
2020年5月 内閣官房、契約トラブル実態に関するフリーランス実態調査を発表
2020年6月 フリーランス協会、「フリーランス白書2020」で前年秋に実施した契約トラブル実態調査を公表
2020年7月 内閣官房、ガイドライン策定と下請法改正を含む立法的対応の検討を閣議決定
2020年11月 第二東京弁護士会、「フリーランス・トラブル110番」の委託運営開始
https://blog.freelance-jp.org/20201125-11249/
2021年3月 内閣官房ほか、フリーランスガイドライン公開
「フリーランスとして安心して働ける環境を整備するためのガイドライン」(案)に対するパブリックコメントの結果の公示及び同ガイドラインの策定について
2021年6月 内閣官房、書面での契約のルール化など法制面の措置検討を閣議決定
2021年9月 フリーランス協会、報酬トラブル弁護士費用保険「フリーガル」を年会費据え置きで自動付帯に
https://blog.freelance-jp.org/20210908-13357/
2021年11月 内閣官房、「新しい資本主義実現会議」の緊急提言でフリーランス保護新法の早期国会提出に言及
2022年6月 内閣官房、フリーランス取引適正化のための法制度の検討と早期国会提出を閣議決定
2022年9月 内閣官房、フリーランス新法の方向性公開、パブコメ募集開始 ←イマココ