国立大学法人信州大学など4法人によるコンソーシアムは8月7日、首都圏人材と地域企業が結びつき相互に学び合いながら成長と発展を目指すプロジェクトを10月から6カ月にわたって実施すると発表した。
コンソーシアムには信州大学のほか、政府系人材サービス会社の株式会社日本人材機構、地域経済活性学会における成果の社会還元を担う一般社団法人Lamphi(ランフィ)、信州地区を代表するシンクタンクである特定非営利法人SCOPが名を連ねる。
人材の首都圏一極集中を是正し、地方へと人材が流動化するエコシステム(生態系)の形成を目的とする取り組みだ。
プロジェクトの旗振り役となっている信州大学の林靖人准教授(産学官連携・地域総合戦略推進本部 本部長)に「100年企業創出プロジェクト」と題したチャンレジャブルな試みについて聞いた。
地方大学がハブとなり首都圏人材と地域企業をつなぐ
地方大学がそのプレゼンス(知名度、存在感)を発揮して、人材と企業の求心力となるプロジェクトがスタートする。信州大学は、中小企業庁「地域中小企業人材確保支援等事業(中核人材確保スキーム事業)」の実証機関となり、今回のプログラムを実施する。
「自分のポリシーとして、地方創生は、単に人がたくさん来ればよいのではなく、一騎当千の一人が必要になると考えていた。そういう人物を地域が取り込んで、それに刺激を受ける交流をしていくことで、イノベーション(新結合による革新)が生まれると思う」(林准教授)
首都圏で活躍する人材10名を、信州大学が客員研究員として受け入れる。その10人は大学内で設置す特設ゼミに所属しながら、長野県内企業10社をフィールドに研究・実践として、各企業の経営課題の解決と将来構想策定に取り組む。1週間のうち3~4日県内企業に出向き、1~2日は大学のゼミで企業の課題解決(あるいはソリューションの精緻化)に必要な知見を教員や特任教員らから学ぶことができる。その際には、全国の地域企業を人材面で支援してきた日本人材機構や、地域活性化の研究事例を豊富に有するLamphi、信州地区において多くの企業支援実績のあるSCOPのノウハウも活用できる仕組みになっている。コンソーシアムが組まれ、制度化した上で大学が企業支援のための人材の求心力となるというケースは、国内の大学では類を見ない。少なくとも、今回、中核人材確保スキーム事業の実証機関として認定された7社に、大学としては唯一選ばれている。
「どう表現したら”初”という言い方ができるのかは分からないのですが、この取り組み自体は他にはないと思っています。地域の企業の課題を通じて、社会で活躍する人々に実践的なリカレント教育プログラムを提供できるということは、大きな意味があると考えています」(林准教授)
「実践型リカレント教育」がもたらす人材、企業、大学のメリット
人材(研究員)側、企業側、大学側にもたらされるメリットは以下のようなものが考えられる。
首都圏から募る人材には、大学で研究員となり半年間の「実践型リカレント教育」を受けながら企業の課題解決に取り組むと同時に、企業から活動費(月額30万円)を受けることができる。「地域の企業には興味はあるが、何の縁もないところでいきなり働くのはハードルが高い」と思っている人材にとって、地方を代表する大学で客員研究員を務めながら企業のサポートにあたることが可能になることでっかりと地方の企業を知る時間をもちながらも、同時に自らの可能性を図るよいチャンスを得ることができる。
「いきなり地域の中小企業に飛び込めといってもなかなか難しいと思います。そんな中、大学が間に入って、大人向けのキャリア「開発型インターンシップ」のようなスタイルにすることで、両者の距離が効率的・効果的に縮まるのではないかと考えています。実際に地域や企業に触れてみることで、研究員の新しいキャリア開発にもつながると思います」(林准教授)
企業側にとっては、プログラム参加費(月額30万円×6ケ月)を支払うことで、より高度な経験を持った首都圏で活躍する人材を自社の課題解決に活用できる機会となっている。事業終了後は、本格的な雇用等を企業と研究員で相談しながら決めることになるが、時間をかけて研究員を見定めることができるため、マッチングミスも生じにくい。また、本事業は新しい働き方づくりの狙いもあるため、従来地域ではなかった終身型雇用の形式以外にも兼業型、パラレルキャリア、協業など様々な形で将来の関係性を構築することにも繋がることが期待される。
大学側にとっても、県内企業に人材を供給するための新たなソリューションを提供することで地域貢献につながる。さらに、際立った成果を出した研究員を、客員教員に昇格させることで、大学の産学官連携事業を促進するという狙いもある(人材側にとっても大学での教育や研究に関われるメリットになる)。
「AさんとBさんをいきなりマッチングするよりも、こうしたプログラムを経て結びつきを深めてから就職する方が確率は上がるはずですし、就職でなくても、受入企業や地域には良い刺激が与えられます。また、今回は受入企業の方にも大学でのプログラムの場に参加していただき、企業側にも様々な学びの場を提供します。こうした取り組みは大学が入るからこそできる仕組みだと思います。大学も研究・教育を活かし、新しい地方創生事業に取り組んでいきたいと思います」(林准教授)
予定される企業には、製造業、サービス業の多様な業種に及んでおり、中にはプロサッカークラブ松本山雅FCの練習拠点の活性化と温泉等の地域観光資源を結びつける課題なども含まれる。首都圏でビジネスマンとして活躍する人々にとって、門戸が広く開かれている。現在、企業選定(10社)と人材の選定(10名)が同時に進められており、地域におけるキャリア形成を考えていながら一歩を踏み出せていない方には、一考する価値のあるプログラムとなりそうだ。
参画企業:
株式会社松本山雅(サッカーチーム)https://www.glocaltimes.jp/news/3866
株式会社エラン(リネンレンタルサービス)https://www.glocaltimes.jp/news/3876
NiKKi Fron株式会社(FRPメーカー)
信州大学 100年企業創出プログラム 公式サイト:https://www.shinshu-u.ac.jp/project/100nen_kigyo/
問い合わせ 信州大学 学術研究・産学官連携推進機構:100nen_kigyo@shinshu-y.ac.jp