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元SMAPを救えるか?ジャニーズに「注意」した公取委の思惑と経済への影響

ジャニーズ事務所が、独立したSMAPの元メンバー3名を番組に出演させないようテレビ局に求めていた疑いがあり、独占禁止法違反につながる恐れがあるとして、公正取引委員会が同事務所に「注意」をしていたことが明らかになった。

お茶の間から遠ざかった元SMAPメンバー

国民的人気アイドルグループであったSMAPが解散したのは、2年半前の2016年12月31日。それからしばらくは全員ソロタレントとしてジャニーズ事務所に籍を置いていたが、2017年9月8日に稲垣吾郎氏、草なぎ剛氏、香取慎吾氏が退所し、同年9月22日付けで元チーフ・マネージャーであった飯島三智氏が立ち上げた新事務所に所属し、「新しい地図」という公式ファンサイトを立ち上げて活動を再開している。

しかし、お茶の間でテレビの前に座っている皆さんがお気付きの通り、稲垣氏、草なぎ氏、香取氏の姿を地上波の番組で見かける機会は激減している。今年2月に香取氏が『欽ちゃん&香取慎吾の全日本仮装大賞』(日本テレビ系)に出演した時には、大きな話題となった。

そうした状況の中、公取委の調査は、昨年から同事務所やテレビ局の関係者らから事情を聞くなどして行われていたという。調査の結果、事務所が圧力をかけた事実は確認されなかったが、局関係者が「制作側が事務所側の意向を忖度することはあった」と認めているという報道も出ている。

カリスマ的影響力を誇ったジャニー喜多川元社長が亡くなり1週間ほどして、マスメディアが一斉に報じた本件。同事務所は、「テレビ局に圧力などをかけた事実はなく、公正取引委員会からも独占禁止法違反行為があったとして行政処分や警告を受けたものでもありません。とはいえ、このような当局からの調査を受けたことは重く受け止め、今後は誤解を受けないように留意したいと思います」とホームページ上でコメントしている。

 

公取委は何を「注意」したのか?

一部報道では、今回、公取委が「注意」を行った背景に、ジャニーズ事務所から新事務所の株式会社CULENに対する「取引妨害」にあたる恐れがあると言われている。しかし、問題はそれだけではない。

2017年度に、公取委は「人材と競争政策に関する検討会」を開催し、フリーランスと企業の取引実態について調査した。私の運営するフリーランス協会も、フリーランスが直面する問題を理解してもらうべく、アンケート調査の実施やヒアリングを通じて協力させていただいた。

その結果、昨年2月に公表された報告書で、フリーランス人材(タレントやスポーツ選手を含む)の獲得競争や企業との取引に対する独禁法上の考え方が整理された。

この報告書の画期的なところは、”’それまで企業間取引においてのみ適用されていた独禁法が、企業と個人の間の取引においても適用される”’、という方針が新たに打ち出されたことだ。つまり、公取委はフリーランスを独禁法で保護していく、という立場を明確にしたのだ。

これを企業だけでなく、個人にも広く周知するため、公取委は分厚い報告書のポイントを簡易にまとめたパンフレットも制作している。

人材と競争政策に関する検討会報告書のポイント(公正取引委員会)より
人材と競争政策に関する検討会報告書のポイント(公正取引委員会)より

新たな方針では、フリーランスが発注者から無理強いされても、事業の継続が困難になって収入に大きな支障を来すため受け入れざるを得ないような場合に、発注者がフリーランスに対して「優越的地位」にあると説明している。

つまり、事務所を怒らせると芸能界での仕事を干されて困るため、事務所の言うなりにならなければならないという状況が真であるとするならば、”’ジャニーズ事務所は所属タレントに対して優越的地位にある”’。

そして、「代金の支払遅延」や「代金の減額」と並んで、”’「合理的に必要な範囲を超えた(専属) 契約」や「過大な競業避止義務」は、「優越的地位の濫用」であり、独禁法上、問題となる場合がある”’と明記されている。

これまでもタレントの独立や移籍に際して、所属事務所とトラブルになった、干された、といった報道や憶測は度々浮上していたが、今後もこうした問題に対しては公取委が黙っていない可能性が高い。

 

人材の囲い込みは、社会全体の生産性を損ねる?

また、競争政策に関する国際的な議論では、過度な競業避止義務は、社会全体の生産性を損ねるという指摘がホットトピックらしい。

フリーランス協会が日本経済新聞社や公正取引協会と共に共催した、公正取引委員会 競争政策研究センターのシンポジウム「多様化する働き方と経済活性化~競争政策にできること~」において、一橋大学の神林龍教授から、米国の競業避止義務と労働市場の関係について発表があった。米国では労働人材の流動性が低下しており、過度な競業避止義務が人材流動性を制約しているのではないかという議論が生じているという。

第17回競争政策研究センター国際シンポジウム配布資料
第17回競争政策研究センター国際シンポジウム配布資料

日本でも、内閣府が昨年から、国内フリーランスの人口規模や、競業避止義務との関連性に関する精緻な経済分析を進めており、私も調査票の設計等でほんの少しだけ協力させていただいた。経済分析のプロフェッショナルらによる渾身のレポートは、間もなく公開される見込みだ。

歯止めの利かない人口減少の中、ヒトこそが最も希少な資源になっていく。そのような中、政府は人材の流動性を高め、成熟産業から新興産業へ人材を移転させて新たなイノベーションを促進するために、あれこれ策を講じている。副業推進もその一端とも言える(もちろんそれ以外の推進理由もあるが)。

人材が流動する際に、秘密保持義務はもちろん守られなければならないが、それと競業避止義務とは別問題だ。これからは、芸能界だけでなく、ビジネス界においても、過度な囲い込みには要注意、という時代が来るだろう。

 

※本記事は7/19(金) 17:35のYahoo!ニュース掲載記事の転載です。ビジネス・インサイダージャパンでもお読みいただけます。

 

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