去る2019年11月1日に開催されたIndependent Power Fes。その中で発表されたフリーランスパートナーシップアワード エージェント部門で大賞を受賞したのはNPO法人G-netの掛川遥香さん。
フリーランスパートナーシップアワードとは、フリーランス活用企業のロールモデル輩出とマッチングサービス業界の健全な発展に向け、未来につながる事例をフリーランスが選び、表彰するものです。
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フリーランスパートナーシップアワード2019
掛川さんが携わる「ふるさと兼業」は、「副業解禁」や「地方創生」といった社会の動きを体現したかのようなサービスです。しかし掛川さんは、安易な気持ちで始める兼業について警鐘を鳴らします。コーディネーターとして多くの企業と兼業者をマッチングしてきた掛川さんにお話を伺いました。
プロフィール 掛川 遥香(かけがわ はるか) 北海道大学時代に田舎に住み込み、農業バイトに没頭した経験から、地域中小企業支援を目指し、NPO法人G-netに新卒入社。インターン、採用、兼業のコーディネーターとして、年間100名超の学生や社会人とキャリア面談を実施。地域企業の繁忙期に働きに行く「旅する兼業」実践者。 担当する兼業マッチングのプラットフォーム「ふるさと兼業」が第一回フリーランスパートナーシップアワード エージェント部門で大賞を受賞。 |
企業に勤めながら、都会に住みながらでも、地方企業の課題は解決できる
ーこの度は「第1回フリーランスパートナーシップアワード」大賞の受賞、おめでとうございます!それではまず、掛川さんが携わる「ふるさと兼業」について教えてください。
「ふるさと兼業」は、2018年9月にスタートした兼業マッチングのプラットフォームです。全国の中小企業の「こんなことをやってみたい」「こんな課題を解決したい」という思いをプロジェクト化し、サイトに載せています。
それを見た全国の人がそこに応募し、マッチングを図るという仕組みです。プロジェクトのほとんどはリモートで進められるので、応募者は今の住まいや仕事を変えずに参加できます。現在、約100プロジェクトを募集しており、エントリー率はほぼ100%。そのうち85%がマッチングできています。
ーほぼすべてにエントリーがあるんですね!「ふるさと兼業」ならではの特徴はあるのでしょうか?
2つあります。ひとつは、「誰と、何を、なんでやるのか」を明確にしたプロジェクト型の募集という点です。「WEBマーケティングを強化したいから経験者を募集する」といった単純なスキルマッチではなく、募集の背景にどんな思いや課題意識があるのか、そのために「誰と・何を・何のために・いつまで」やるのか、その部分を明確にすることを大事にしています。
もうひとつは、コーディネーターの存在です。各プロジェクトには必ずコーディネーターがいて、企業側・応募者それぞれが、どんな狙いや期待を持って参加するのかという前提をすり合わせたり、各自の意図の深堀りをしたりします。面談・面接へ同席もしますし、実際に動き出してからもお互いの思いのズレに気付き、埋めるためにサポートします。
ー掛川さんはそこで、どんなお仕事をしているのでしょうか。
私は東海地域のコーディネート業務をしています。「ふるさと兼業」立ち上げ以前もコーディネーターをしていたので、これまで関わった数は35社で50人になります。
もともと就職活動のときは、地域の「面白い」中小企業で働きたいと思っていました。でも、学生だったこともあって、そういう企業をどう見つけたらいいかがわからなくて。そこで、地域の企業の手伝いをしているところで働けば面白い企業を知ることができると考えて、「ふるさと兼業」を運営するNPO法人G-netに入りました。
ー掛川さん自身も兼業を実践されているそうですね。
はい。私は「旅する兼業」という名前で実施してます。がっつり企業に入って働くでもなく、リモートで働くでもなく、休暇を使って2~5日間ほど繁忙期の企業に飛び込んで、そこでお手伝いをするんです。
ゴールデンウィークは三重県尾鷲の温泉施設に泊まりながら、お風呂掃除や受け付け、接客などをしていました。普段とはまったく違う仕事体験ですし、クライアント理解にもつながるし、学ぶことが多いです。
金銭ではない「意味報酬」こそ、兼業参加者に持ち帰ってもらいたい
ーどのような人が「ふるさと兼業」に登録するのでしょうか?
実は、ふるさと兼業に登録する人で「金銭目的」はあまりいないんです。「このプロジェクトだからやってみたい」とか、「自分の地元にどうにかして関わりたいと思っていた」という人がとても多い。あとは、将来的にフリーランスで働きたいと思っていて、プロジェクトを通して自分の仕事につなげていきたいという人もいますね。
ー社外の人間を受け入れることって、地域の企業だとあまり馴染みがないと思うんです。企業側に戸惑いはないのでしょうか?
その通りで、企業側から「プロボノや副業の人に何をどこまで任せていいのか」「自分たちは何をすればいいのかわからない」という声をたくさんいただきます。なので、研修をおこなったり、コーディネーターが入って一緒にプロジェクトを設計したりします。
プロジェクト設計の中で意識しているのは、外部人材ありきで考えないということ。「このスキルを持った人が来たら、これをやってみたい」ではなく、外部の人間がいるいないに関わらず、企業が、本当にやってみたいことは何かを引き出せるよう、コーディネーターがヒアリングするんです。
募集が始まる時点では、「本当に自分たちの会社に興味を持つ人がいるんだろうか」と半信半疑の企業もいます。でも、実際に応募があると、「自分たちのプロジェクトに興味を持ってくれる人がいるんだ」と嬉しくなりますし、いざプロジェクトが始まると、参加者が一生懸命にやってくれる。その姿に刺激され、企業側も「もっとがんばらないと」とエンジンがかかっていく。プロジェクトが加速する瞬間ですね。
ーコーディネーターの役割はかなり重要ですね。プロジェクトが始まってからも、コーディネーターは関わっていくのでしょうか。
実際にプロジェクトが始まってから、1~1ヶ月半くらいの時点で、参加者と企業の両方にアンケートを取ります。
例えば、「プロジェクトを通して自分が得たかったものは何か、それを得られたと思っているか」や、「プロジェクトは今何合目にいると思うか」などを聞きます。
すると、企業側の満足度はとても高いのに参加者は低いとか、その逆とか、企業と参加者とで差が出てくるんです。「何を得たかったか」という期待次第で、同じプロジェクトを進めていても捉え方が変わってしまうんですね。そこでコーディネーターが、各々の思いを翻訳して伝えています。アンケートの結果をお互い見える場所で確認して、もともと何を期待していたのかを改めてお互い確認しあうんです。
ー普通はマッチングしたら終わりだと思うのですが、「ふるさと兼業」のコーディネーターはそこまでやるんですね!今まで関わったのプロジェクトの中で、印象的な事例はありますか?
岐阜県高山市にある林業商社のプロジェクトですね。「人事部を立ち上げて、”林業のお仕事フェア”を開催する」ということで、プロボノで進めてくれる外部の人を募集し、2名が採用となりました。参加者のうち、ひとりは実際に大企業の人事部にいた方で、もうひとりは、それまでもプロボノで様々なプロジェクトに関わった経験をお持ちの方でした。
人事部の立ち上げもフェアの開催も、何もかもが初めての中、参加者の2人が自分の経験から、広報の仕方や広告の打ち出し方などのアイデアを出してくれました。
また、持っている人脈を使って人と人をつなげたり、勉強会に参加して情報を共有したりも。
フェアの当日はキャリアのお悩み相談ブースをつくって、参加者自身が相談ブースの相談員として活躍してくれました。
結果として、目標としていた「フェアの来場者数100人」を達成することができました。また、参加者のおひとりは、今回のプロジェクトの経験を通して「ベンチャーで働くスピード感」を体感したことが自信となり、その後ご自身もベンチャー企業に転職されたそうです。
ー企業側も参加者側もwin-winとなる、まさに理想的な関係ですね。
そうですね。プロジェクト終了後も、お仕事フェアは2回、3回と開催されていて、参加者の2人は自主的に手伝いにいっているそうです。コーディネーターがいなくても企業と参加者との関係が築けていけるというのは、すごくいいなと思っています。
こういった、自分の働き方を見直すきっかけとか、地域の企業とつながったりといったお金には換算できない価値を、私たちは意味報酬と呼んでいます。
プロジェクトが、ただ単にスキルとお金の等価交換として、「納品して終わり」となってしまわず、どれだけ意味報酬を生み出していけるかを「ふるさと兼業」では大事にしています。そのためにも、各自が「何に価値を感じているか」を都度都度コーディネーターが聞き取っていかなくてはと思っています。
プロジェクト崩壊の危機から学んだ「ファッション兼業」の危うさ
ー副業を解禁する企業が増えたり、国としても関係人口創出に助成金がつくなど、社会の流れは「兼業希望者」の後押しをしていますよね。実際に希望者は増えているんですか?
希望者層の幅は広がってきていますね。以前は30代後半から40代前半が多かったのですが、今は20代後半から50-60代までいます。
ーそうなってくると、希望者側も軽い気持ちで登録したり、企業側も不慣れな中で、ミスマッチや相互理解の不足によってプロジェクトがたちいかなくなってしまうこともあると思うんですが。
まさに、そんな例がありました。
もともと企業側にも「これをやりたい」という明確な意思があまりなくて、そこをコーディネーターがやりたいことを掘り起こしていったプロジェクトでした。実際募集してみると、一週間くらいですぐ複数の応募があって、企業側も「こういう人が欲しい」というこだわりがなかったので、応募してくれた3名をそのまま採用したんです。
それでプロジェクトが開始したのですが…結局その後、ひとりは音信不通になり、もうひとりも自身の仕事が忙しくなり来なくなってしまって。ひとりしか残らず、プロジェクト自体が崩壊しかけてしまいました。
この経験を通して、自分自身の反省も含めて強く思うのは、気軽に応募できるからこそ、「兼業している自分っていいよね」だけのファッション兼業は本当にダメだということ。
でもこういう人は、本当に増えています。だからこそ、応募者と企業とをマッチングする前、事前に応募者と面談をする中で、応募者自身がどういう意図で応募し、兼業プロジェクトにどんな意味を見出しているかを言語化するお手伝いをしなくてはいけないと思っています。参加の意味をきちんと自分でわかってらっしゃる方もいるんですが、まだ言語化できていない人や、兼業が初めの方に対しては、コーディネーターがコーチングしながら一緒に深堀りしたり、企業との面接の前にご自身で考えていただくアプローチが必要なのだと学びました。
ーとても大事なお話です。より強くコミットしてがんばってもらうために、企業側には何かアドバイスしているのでしょうか。
たとえプロボノで来てくれる人材であっても、「来るもの拒まず」では後が大変になりますよ、ということを伝えています。きちんと会社に貢献をしてもらえる人間なのか、自社のチームにマッチするかをしっかり精査しなくてはならないと。
参加者に対して報酬を支払う場合だと、企業側もかなり精査するので、結果的にコミットメントを高めることにつながるんです。だから、金銭報酬がない、プロボノとして関わってもらう場合であっても、何かしら企業側からの誠意は見せられるようにしてください、というのは伝えています。
ー最後に改めて、コーディネーターというお仕事のやりがいと、今後の抱負について教えてください。
地域の企業が「面白くなる前」のお手伝いをして、面白い企業をつくって世に送り出していくのが私たちの仕事です。いつかはコーディネーターなしでも、人が集まるような有名企業になってくれたらいいなと思っています。
どんな企業でも、「思いの種」をたくさん持っているので、それを形にするために一緒に走っていく、伴走していくところがやりがいですね。
コーディネーターの力量で生きるも死ぬもあるので、自分もどんどんステージを上げていきたい。力をつけていきたいです。
(インタビューここまで)
掛川さんがおっしゃった「ファッション兼業は本当にダメ」という言葉、ぐっさりと刺さりました。私は、独立やフリーランス、複業を広めたいという立場だけれども、そんな私自身が、ひとつひとつの仕事に全力投球できているか、「こなす仕事」になっているのではないか、…忙しさにかまけて見てぬふりをしていた部分に向き合わねば、と思わされました。
そして、金銭報酬ではない、私自身の「意味報酬」は何かを改めて言語化できれば、これからの仕事への取り組み方がまたひとつ変わる予感がしています。