資産形成の強い味方。小規模企業共済、国民年金基金、iDecoを徹底比較!【寄稿 元日銀マン・エコノミスト鈴木卓実さん】

前回は、フリーランスの資産形成はサラリーマンよりも重要という内容でした。今回は「ではどうすればいいの?」という点について、各種の制度を解説・比較しながら考えたいと思います。

フリーランスは国民年金(基礎年金)のいわゆる一階部分しかなく、資産を取り崩して生活費に充てる額が多くなるため、効率的に資産形成を行えるよう国が制度上の優遇措置を設けています。こうした制度はありがたいのですが、一方で、複数の制度が並立しているため、やや複雑です。
まとめると、下図のような特徴、メリット・デメリットがあります。

今回紹介する、フリーランス向けの資産形成制度の一覧

まずは、他の制度とのバッティングが少ない小規模企業共済から見ていきましょう。

小規模企業共済は、他制度と組み合わせやすい

出典:中小機構「ご存知ですか?小規模企業共済(動画)」

小規模企業共済は、従業員20人(サービス業などは原則5人)以下の個人事業主や役員が加入できる、経営者のための退職金制度です。掛金は月額1,000円から7万円までの範囲で選ぶことができ、全額が所得控除になります。
年間84万円(7万円×12か月)を掛けて、税率が20%の場合、年間16.8万円の節税効果がある計算になります。国民年金基金やiDeCo(個人型確定拠出年金)の掛金とは別枠なので、節税効果を最大限利用する場合は、小規模企業共済+国民年金基金・iDeCoという組み合わせになります。

国民年金と国民年金基金は名前が紛らわしいですが、国民年金は皆保険による一階部分、国民年金基金は一階に上乗せする部分になります。国民年金基金もiDeCoも上乗せ部分なので、掛金が同じ枠になります。

小規模企業共済には、積み立てた掛金の範囲内(掛金納付月数により掛金の7~9割)で資金を借りることができる「貸付制度」があり、老後に備えた資産形成をしながら資金調達の手段を増やすことができるというメリットがあります。資金使途によって借入条件は異なりますが、概ね市中金融機関からの借り入れよりも有利な条件と言えるでしょう。

良いこと尽くめのように思えるのですが、デメリットもあります。予定利率が1%と低いため、インフレに弱いという点です。他の資産を保有する場合は、満期の長い定期預金ではなく、インフレ耐性がある資産を検討した方が良さそうです。物価上昇率が毎年2%でも、約35年で物価は2倍になりますので、マイルドなインフレでも馬鹿にできません。

受給時に一時金は退職所得控除、年金なら公的年金等控除の優遇税制があります。これらの控除枠は国民年金基金やiDeCoと同じ枠なので、受給金額が多い場合は、受け取り方を工夫することで節税に繋がります

国民年金基金の掛金枠は、iDeCoと共通

国民年金と国民年金基金は別物!国民年金に上乗せできる制度が国民年金基金

次に見る国民年金基金(国民年金に上乗せする形で将来もらえる年金が増える制度)は、掛金の上限は月6万8,000円。この上限はiDeCoと共通なので、iDeCoで枠を使い切ってしまうと、国民年金基金は利用できません。
掛金は所得控除になるので、年間81.6万円(6.8万円×12か月)を掛けて、税率が20%の場合、年間16万3,200円の節税効果がある計算になります。フリーランスは終身で受け取れる年金が少ないので、これを補える点は心強いです。

国民年金基金のサイトに年金額シミュレーションがあるので、掛金と受取金額の試算値を基に内部収益率を計算してみました。掛金は年齢などによって支払う期間も総額も変わりますし、国民年金基金の1口目は終身年金なので、何歳まで生きるかによって受給期間も受給総額も変わります。今年の1万円と来年の1万円、数十年後の1万円は価値が違うので、単純に掛金総額と受給総額を比較することはできません。そこで、お金の価値を現在の時点にそろえて比較できるようにするため、内部収益率を用いています。

私の場合、85歳まで生きたときの内部収益率は0.84%、90歳では1.76%でした。受給額が固定でインフレ耐性がないため、この利回りだとやや微妙な数字です。100歳まで生きた場合の内部収益率は2.77%と、まあまあの数字になりました。長生きリスクとどう向き合うかで評価が変わりますが、自分で投資商品を選ぶiDeCoのように運用方法に頭を悩ませる必要はないので、事業に集中したいという方には向いていそうです。

国民年金基金は国民年金の付加保険料制度と同時に利用できません。ともに終身年金の上乗せなので、2つ同時には使えないという理屈のようです。国民年金の付加保険料は月額400円。受給額の上乗せは1年間で200円×納付月数なので、2年間で元が取れます。利回りだけで見れば、付加保険料制度の方が良いのですが、国民年金基金はしっかりと掛金を積み立てる分、毎月の受給額が多くなります。どちらを取るか慎重に検討した方が良いでしょう。

運用益が非課税になるiDeco

iDeCo(個人型確定拠出年金)は、公的年金に上乗せして給付を受ける私的年金のひとつ

制度の紹介の最後はiDeCo(個人型確定拠出年金)です。積み立てた金額は”確定”しますが、受け取れる金額は運用成績で変わります。受け取れる金額が決まっている確定給付型とは名前は似ていますが、まったく別の仕組みです。iDeCoの掛金の上限は年間81.6万円(下限額6万円)。掛金の変更は年1回できますし、毎月定額で積み立てるのではなく、年後半に多めに積み立てることもできます。掛金は所得控除になります。

フリーランスになる前に、勤め先で企業型確定拠出年金に加入していた方は、iDeCoへの移管手続きを行わなかった場合、資産が国民年基金連合会に自動移管され、運用されないまま手数料だけが引かれてしまいます。退職時に説明されていない方も多いそうなので、この機会に確認をおすすめします。

iDeCoは長期の運用で売買頻度が少なく、保守的な商品が中心になるため、金融機関側からすると、あまり旨味がある制度でありません。そのため、iDeCoの相談に行って、他の金融商品を勧誘されたり、口座管理費用が高く設定されている金融機関があったりと、注意が必要です。

小規模企業共済や国民年金基金に比べるとiDeCoは運用の自由度が高いですが、その分、色々と悩むことになります。金融商品のラインナップもまちまちなので、確定拠出年金教育協会の「iDeCoナビ」やモーニングスターの「iDeCo(個人型確定拠出年金)総合ガイド」などを参考に金融機関を選びましょう。

iDeCoの投資対象になっている金融商品には、元本保証がないものもあれば、信託報酬などのコストが高い商品が紛れていることがあります。投資信託は大別して、日経平均やTOPIX(東証株価指数)、海外ではダウ平均やS&P500といった指数に連動させていくインデックス型と、指数を上回る成績を目指すアクティブ型に分かれます。
一見、アクティブ型の方が良さそうですが、長期でインデックス型に勝ち続けるのは難しいですし、コストが高いことも多いです。毎年のわずかの差でも長期で運用した場合、複利効果で大きな差になりますので、iDeCoの特典である運用益が非課税というメリットを活かすには、金融商品選びが重要になります。

元本割れのリスクをゼロにしたいという方は、定期預金型の商品を購入するという方法もあります。1年定期を満期のたびに繰り返すような商品であれば、インフレ耐性も期待できます。注意点は、たとえば、証券会社でみずほ銀行の定期預金型で積み立て、別途、みずほ銀行に預金を持っていた場合、ペイオフ時は名寄せされますので、預金総額を把握しておいた方が良いでしょう。

フリーランスの特権を生かして、制度を利用しよう

どの金融商品で運用するかは個人の金銭上のリスク耐性、そして、日々の株価などの値動きが気になるかどうかといった性格にも左右されます。あえて私見を述べるなら、iDeCoの特徴である運用益非課税というメリットを活かすのであれば、価格変動リスクを取る意味はあります。受け取りのタイミングをある程度調整できるので、相場急変時のダメージも緩和する余地があります。

事業収入は日本経済の動向に影響されますし、将来の国民年金の受給額も日本経済の動向に左右される面があります。日本株中心の投資信託ばかり保有していると、現役世代の収入も老後の資金も共倒れになってしまいますので、リスク分散と世界経済の成長に乗るというリターンを期待して、外国株式の投資信託は検討に値すると思います。

これまで見て来たように、制度も金融商品もメリット・デメリットがあり、最高・完璧というものはありません。ですが、所得控除など税制上の特典を利用できる範囲が大きいのは、フリーランスの強みですし、自助努力・自己責任の性格が強い分だけ、効率的に資産形成を行うことができます。この機会に老後に備えた資産形成を考えてみてはいかがでしょうか。

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寄稿者:鈴木卓実さん
たくみ総合研究所代表、エコノミスト
エコノミストでありながら、睡眠健康指導士。1979年、新潟生まれ仙台育ち。仙台育英学園高等学校出身。地元での仮面浪人を経て、慶應義塾大学総合政策学部を卒業。2003年、日本銀行に入行後は、産業調査や金融機関モニタリング、統計作成等に従事。2018年より現職。経済家庭教師や各種セミナー(個人向け、企業向け)、経済・金融や健康リテラシー向上のための執筆、アドバイザーなどを通じて情報発信を行う。ITmediaビジネスオンラインにて「ガンダム経済学」、楽天証券トウシルにて「数字で分かる。経済ことはじめ」、東洋経済オンラインにて「あの統計の裏側」を連載。

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