島の生命線「大島大橋」の衝突事故。大ピンチの中、副業人材は言った「チャンスじゃないですか」。瀬戸内ジャムズガーデン|11月1日 Independent Power Fes 2019 フリーランスパートナーシップアワード受賞者インタビュー

去る2019年11月1日に開催されたIndependent Power Fes 2019。その中で発表されたフリーランスパートナーシップアワード 企業部門で大賞を受賞したのは株式会社瀬戸内ジャムズガーデン
フリーランスパートナーシップアワードとは、フリーランス活用企業のロールモデル輩出とマッチングサービス業界の健全な発展に向け、未来につながる事例をフリーランスが選び、表彰するものです。

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「瀬戸内ジャムズガーデン」は、副業人材である野島さんとともに、会社だけでなく地域すべてを巻き込んで未曾有のピンチを乗り越えました。副業人材をどのように迎え、どのように協働していったのか、瀬戸内ジャムズガーデン代表取締役社長の松嶋匡史さんにお話を伺いました。

プロフィール
松嶋 匡史(まつしま・ただし)
瀬戸内ジャムズガーデン 代表取締役社長。店主・コンフィチュール クリエイター。
2003年に山口県の周防大島にて瀬戸内ジャムズガーデンを創業。果物の栽培、ジャムの製造・販売、カフェ運営を行う。材料は50軒以上の地元の契約農家より供給を受け、地元の果実を使い、年間180種ものジャムを製造。

副業人材であっても、島を思う気持ちに共感してほしかった

ーこの度は「第1回フリーランスパートナーシップアワード」大賞の受賞、おめでとうございます!まずは、瀬戸内ジャムズガーデンについて教えてください。

山口県の周防大島で、地元農家と自社農園で作った果物をジャムに加工し、販売する企業です。ジャムは年間180種類ほどつくっており、「ブティック」と名付けた店舗で試食してもらい、購入できるスタイルにしています。

ジャムの原料となる果物は、3~4割が自社栽培で、残りは地元の農家さんから仕入れています。地元で栽培されているものは地元の農家さんから買って、周防大島内にできる限り経済的な循環を作っていく取り組みをしています。

ー単なる「ジャムの店」ではなく、周防大島全体が良くなるように事業を考えているのですね。

そうですね。実は周防大島は高齢化率日本一の島でして。原因の1つが農業離れです。例えば、農家さんが出荷する加工用みかんは、キロ7円から8円という安値で取引されていて、ガソリン代にもならない。利益が出ないから農家を継ぐ若手が入ってこず、どんどん農家さんが高齢化していってしまったんです。
そんな状況を変えようと、うちの会社では農家さんに利益が出て、できるだけ島の経済がまわるようにジャムを作っています。

「瀬戸内ジャムズガーデン」では、ジャムの製造・販売のほかカフェも営業している。

ー今回瀬戸内ジャムズガーデンは、フリーランス活用企業として表彰されましたが、そもそもなぜフリーランス人材を活用しようと思ったのでしょうか。

うちの会社の売上は、直営店が6割、パン屋さんなどに卸す分が3割で、Webでの売上は1割程度だったんです。このWebの売上をもっと伸ばしたく、Webマーケティングができる人を雇いたかった。

ただ、ある程度スキルが高くて経験値もある人が地元にはなかなかいなかったんです。「販売サイトの一部を使いやすくする」といった単純な話ではなく、伝えたいことをお客さまに伝えるために、サイト全体、事業全体を見て一緒に考えてもらえる、そんな人材に来て欲しくて。
とはいえ、丸々1人雇用する余力もないし、どうしようか悩んでいるときに、副業マッチングサービスである「YOSOMON!」から、「副業人材を活用してみないか」という提案を受けたんです。現場で経験を積んでいて、かつ地方に興味がある人がいると教えてもらい、試しに募集してみることにしました。

ー何人かお会いして選ばれたのですか。

候補者は何人かいたそうです。「YOSOMON!」のコーディネーターの伊藤さんが当社の事情をよく知っていたので、彼を信頼してある程度絞り込んでもらいました。
副業にも、金銭目的でやる人と、自分のスキルを活かして社会に還元したいという人がいると思っていて、後者じゃないと厳しいだろうなと思いながら、どんな人が来るのかワクワクドキドキしていました。

やはり、「金銭目的」が透けてみえる候補者さんもいたそうです。そんな中、最終的に契約に至った野島さんは、最初から私たちの事業の本質の部分に共感いただいていた。ただ美味しいジャムを作っているだけじゃなくて、その背後にある、周防大島の一次産業の状況や農家さんとの関係性などをきちんと理解し、そこに魅力を感じてくださっていたそうです。
実際にお会いしてみても、会社の考え方に共感いただけてるのは感じましたし、すごく安心感がありました。

ー仕事の裏にある、タスクではない思いへの共感は大事ですよね。

そうなんです。私たちは島のいろんな事業者と取り組みをしており、うちの売上が上がるだけではなく、地域をもっと盛り上げたいという思いがあります。
そこまで見て欲しい、理解して欲しいと思っていました。だから、契約前に周防大島に来てもらって、ジャム屋の中で打ち合わせをしたり、地域の中で自由に遊んでもらって、どんな島なのかを肌感覚で掴んでもらいました。

未曾有のピンチを救ったのは、副業人材ならではのアイディア

授賞式にて。一番右から副業人材として活躍した野島さん、プロジェクターに映る松島さん、プレゼンターの為末大さん、ETICの伊藤さん。

ー野島さんからはどんな提案があったのでしょうか?

課題であるWebの売上の話をしたところ、簡単にサイトがつくれるサービスを勧めてくれました。後のメンテナンスのことまで考えると、そういったサービスを使った方がイチから作るよりお金もかからないと。
そしてサイト改善のためのデータ取得の話。クリック率など、売上につながるデータを取得するためにはどうすればいいかなど教えてもらいました。最先端の状況をご存知なので、勉強になりました。

ー頼もしいですね。野島さんは副業ということで、本業もありつつ働いているのですが、「もう少し早くやってほしい、もう少し動いてほしい」など、スピード感に不安・不満などはなかったのでしょうか。

それはないですね。野島さんはうちが副業1社目で、ひたすら貪欲にいろんなことを学んでいきたいという姿勢でいてくれています。多くのことを前もって調べてくれていて、そこまで考えて動いてくれているんだと感動することが多い。リモートでお互いの仕事ぶりが見えなくても、あらかじめ忙しい時期などを教えてもらい、その上でミーティングの日や作業日を確保しているので、スピード感に疑問を持ったことはないです。

ー順調な滑り出しだったんですね。ただその後、島全体を揺るがす大変な事故が起きてしまったと伺いました。

そうなんです。2018年の10月、周防大島と本土を結ぶ大島大橋に大型貨物船が衝突するという事故が起こったんです。野島さんと契約して1ヶ月半後くらいの時期でした。大島大橋は島と本土を行き来する唯一の陸路であり、さらに橋の下には送水管が通っていて、水の供給源でもあったんです。その橋が衝突事故で使えなくなってしまった。

事故が起きてすぐの頃は、復旧の見込みがまったく立たなくて。そもそも復旧するかしないか、するとしたら1週間後なのか1年後なのか。そんなこともわからない状況でした。
当時うちの会社は直営店の売上が総売上の6割を占めていましたから、橋の復旧に時間がかかるのならば、6割がまるまるゼロになってしまう。そうであれば、もううちの会社はやめてしまった方がいいんじゃないか…。そんなことを考えて悶々としていました。

ー本当に大変な状況だったんですね。

野島さんとも契約したばかりでしたが、もうこちらとしてもサイト改善してるような心理状態ではなく、野島さんにもそう伝えたんです。すると野村さんがあっけらかんと「チャンスじゃないですか」と言い出して。

ー「チャンス」ですか!

最初は、何を言ってるんだこの人は、と思いましたね。島内で被災している当事者は、どうしても目先のことばかりに目が奪われがちになる。水を汲んでくるにはどうするか、明日は一体どうなるかなど現場レベルのことが頭を駆け巡っているし、実際に被災対応で手がいっぱい。
でも、マーケティングができる野島さんが、島から離れた東京から全体を俯瞰して見てくれた。そして思いもよらないアイデアを提案してくれたんです。

それが、島の現状を伝える特設サイト(現在は閉鎖中)の開設と、「頑張ろうセット」のオンライン展開です。橋の事故で島内は断水が続き、橋も通行止めで大変なことになっていた。でも東京など遠方の人たちは、島内の状況を知らなかった。メディアが伝える情報は断片的で、しかもすぐに流れていってしまう。だったら、自分たちが現状を発信していこうと、特設サイトを開設したんです。
見た人が事故の経緯や島の状況など全体を把握できて、さらに応援したいと思ったときに、「ペットボトルの水を送ってくださる方はこちら」「ふるさと納税で応援してくださる方はこちら」など、応援の方法も全部載っている…そんなサイトを野島さんが突貫工事で作ってくれ、拡散のアイデアも出してくれました。

そしてそのサイトの中で、「頑張ろうセット」を販売することにしたんです。ジャムだけじゃなく、島の他の事業者や水産加工業者など、困っているみんなの商品を「頑張ろうセット」として売ろうと。個別に買っていただくとそれぞれ送料がかかってしまうから、まとめて送れるセットをつくることにしたんです。そのセット販売の企画やページづくりも、野島さんがリードしてくれました。

周防大島内の事業者が手掛ける商品を集めた「頑張ろうセット」。

ー素晴らしいですね。野島さんは、「被災して大変だから、余計なこと言わない方がいいかな」と臆することなく、きちんとアイデアを提案できている。ジャムズガーデンと野島さんの間で、信頼関係ができていたからこそですね。

本当に、事故の1ヶ月前に知り合っておいてよかったです。

こんなこともありました。
水がないとジャムが製造できないため、農業用に使っていた井戸水を検査に出したんです。すると合格が出て、何とかジャムの製造を再開することができました。そのことを野島さんに話したら、「それって、天然水仕込みじゃないですか」って言ってくれて。

ー面白い!野島さん、冴えてますね。

断水から復旧した今も、天然水仕込みシリーズは残っているんですよ。

「副業人材と企業」の関係を超え、お互い成長し合う仲に

ー今、島はどのような状況なのでしょうか?

橋が復旧した今も、商品のセット販売は続けていこうという流れになっています。雨降って地固まるという感じで、今は以前よりも更に団結力のある島になっていますよ。若い移住者も増えてきて、移住者が色んな店を出して、地域の経済循環も変わってきています。

ー天然水仕込みシリーズもセット販売も、副業人材である野島さんが残したものですね。

そうですね。野島さんとは、単なる「副業人材と企業」という関係を超えて、ツーカーの仲になってきまして。
実は私の妻はシンガーソングライターで、先日銀座でライブをやったのですが、そのライブのホームページを野島さんがつくってくれたんですよ。

ー本当にいい関係性ですね。副業人材に懐疑的な企業さんって、忠誠心がなさそうとか、やっぱりよそ者なんじゃないかとおっしゃるんですね。でも、帰属意識って掛け持ちできるものですよね。人間って会社以外にも、地域、大学、家族・・・それぞれに帰属意識を持っている。職場であっても、1社だけじゃなく、本業、副業、それぞれのチームにコミットメントしていけるっていいですよね。

そうですね。うちの仕事をやりながら、他のジャム屋さんに行ってくださいとはちょっと言えないのですが(笑)。
でも野島さんであれば、うちの経験を活かして、他のジャンルの事業者さんでも活躍できると思っています。地方の味噌屋さんのコンサルとか。野島さんも、そういう人材になりたいと話していたので、お互い色々な場所で経験を積んで成長し合う中で、良い距離間で繋がり続けたらいいですね。

(インタビューここまで)

橋の事故の話を聞いて、「チャンスじゃないですか」と言った野島さん。「瀬戸内ジャムズガーデン」と、どれだけの信頼関係で結ばれていたのだろうと驚きました。同じ立場に立ったとき、自分もそのセリフが言えるか…今関わりのある企業さんに、もう一歩踏み込んで向き合おうと、インタビューを通して思いました。
企業側が思いをさらけ出し、副業人材側はそれを肌感覚で理解する。そうすることで、地域外の副業人材だからこその価値が発揮できる。企業側・副業人材側、どちらにとっても学びの多いお話だったと思います。

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