日本でも独立や副業・複業によるフリーランス的な働き方に関心が高まりつつあります。しかし企業側は従来型の雇用による人員補充以外の発想を持っていないことが多く、フリーランスの活用の仕方もわからずにいるようです。
福岡では、タスクやプロジェクトベースでフリーランス人材を活用する企業が増えています。 そこで今回は、「人材不足を乗り切る ~最新!フリーランス人材の活用事情~」と題し、最新のフリーランス人材の活用事例を交えながら、参加者との意見交換を行いました。
イベント情報
【人材不足を乗り切る~最新!フリーランス人材の活用事情~】
日時:2019年6月5日 15:00~18:00
場所:Open Innovation Biotope “Tie”
登壇者
岩永 真一:フリーランス協会福岡HUBリーダー
福岡市出身。卒業時に内定ゼロで社会に出た就職氷河期世代。福岡テンジン大学の学長、北九州市立大学・西南学院大学の非常勤講師、その他講演・ファシリテーターなどを行う。マーケティング×教育×まちづくりの複業フリーランス。
河 京子:株式会社Waris 代表取締役
2007年に株式会社リクルートエージェント(現リクルートキャリア)入社。リクルートキャリア在籍中の2013年4月、株式会社Warisを設立しボランタリーベースで経営に関わった後、2014年6月にリクルートキャリアを退職し現職。2016年4月より福岡在住。
葛谷 美里:フリーランス協会福岡HUBサブリーダー
大手人材会社にて、人事・法人営業、マネジメントに携わる。その後、ヨガ・ピラティスのスタジオを多店舗展開する企業にて、採用の仕組作り・人材育成など責任者を務めながらMBA修了。2018年4月より独立。現在は、フリーランスとして、企業の人材育成に携わる。
オープニング
イベントはフリーランス協会福岡HUBリーダーの岩永 真一さんの挨拶で始まりました。岩永さんは福岡テンジン大学の学長などを務めるかたわら、北九州市立大学や西南学院大学で非常勤講師として教鞭を執っています。
岩永さんは、自分のようにさまざまな分野でフリーランスが活躍できる社会になればいいと考えています。しかし学生の間では終身雇用がベストという価値観が主流であり、年々終身雇用を希望する学生は増えているのだそう。経団連会長が「終身雇用の継続は難しい」と発言した事実についても、あまり知られていない現状が紹介されました。
人手不足を乗り切る~課題解決ブレストワーク~
今回のイベントのメインとなるワークショップでは、いくつかのチームに分かれてブレインストーミングを実施しました。まずチーム内で自己紹介と今回のセミナーに参加した理由を共有します。
その後、全体に向けて各テーブルの代表者がチームメンバーを紹介し、それぞれの立場で感じている課題についても発表しました。会社員として働いている方やフリーランスで活動中の方、ご自身で会社を経営されている方、行政の担当者の方など、多様なキャリアの方にお集まりいただいたことがわかりました。
フリーランス人材の活用事情について
中小企業の経営者の意識
ブレインストーミングの前に、岩永さんから中小企業経営者の認識や人材活用についての事例の紹介がありました。先日、岩永さんが登壇した中小企業経営者向けのイベントでアンケートを取ったところ、どこの会社も人手不足で新卒・中途ともに採用が難しいと認識していることがわかりました。しかし対策は従来型の採用活動が主流で、フリーランス人材の活用という視点を持ち合わせている方はあまりいないようです。
Wantedly(ウォンテッドリー)やBIZREACH(ビズリーチ)といった新しい転職サイトが登場したことで、採用ルールが変わったと言われています。経営者自身が表舞台に登場し、会社の文化や風土を発信できる企業に良い人材が集まっているのです。しかし大半の中小企業の経営者はこういった変化に気づいていないことが多く、雇用以外の選択肢を持ち合わせていないケースも少なくありません。岩永さんによると、イベントに集まった経営者は皆、WantedlyやBIZREACHを知らなかったそうです。
Warisの事例
河 京子さんが代表を務めるWarisでは「人材を採用しても数ヶ月で辞めてしまう」「事業を継承してくれる人材を探したいが、雇用という形ではリスクが大きくて踏み出せない」といったお悩みを持つ企業向けの支援事業を行っています。河さんからは企業が抱える課題の解決にフリーランスを活用した事例をご紹介いただきました。
規模が小さく限られた人数で業務を回している企業では、フリーランス人材を活用することで、低コストで業務フローの構築ができたという事例や、ITベンチャーでの人事経験をもつフリーランスをアサインすることでエンジニア採用の知見の伝授や採用実務を行なった事例などが紹介されました。雇用という形式に囚われなければ、柔軟な対応ができることがわかりました。
質疑応答では参加者との活発な意見交換が行われました。フリーランス協会が取り組んでいるジョブ創出プロジェクトや、企業とフリーランスの間でどのような契約を結ぶのかなどが話題に上る中で、東京や福岡といった地域にかかわらず、企業側の意識が変わらないことには現状の打開が難しいことが浮き彫りになりました。
ブレインストーミング
日本は少子高齢化により、今後人口が激減すると予想されています。生産労働人口は2050年までに今よりも2500万人もの減少が見込まれており、多様な人材に活躍してもらわないとマーケットの縮小に太刀打ちできないものと思われます。
そこで今回のワークショップでは「求人を出していないのに優秀な人材が働きたいとやってくる会社にあるのはどんな要素なのか」をテーマに意見を出し合い、その実現のためにフリーランスができることを話し合いました。
各グループから挙がった要素としては、
- 働く日数や時間、場所が選べる
- キャリアアップができる
- 満足できる収入が得られる
- 風通しがいい
- サービスや製品に魅力がある
- ビジョンや経営理念が浸透している
- 社会に貢献できる
- 安心・安全に働ける
- 課外活動が活発、社内外との交流が活発
- 会社の良さが所属する社員の口から発信されている
などがありました。
あるグループでは、さまざまな分野に優秀なOBを輩出している会社は、結果的に価値が上がるのではないか? という意見が出ていました。そういった企業では常に新しいものを創造しており、業務が固定化していないと分析する人もいました。
関東に比べると福岡はコミュニティが発達しているものの、やや閉鎖的な側面があるといった指摘や、企業とフリーランスでは使う言葉が異なるため、お互いの主張を翻訳できる仲介者が必要なのでは? といった意見もありました。
今回のワークショップでは、参加者の知識や経験を提供しあうことで、多様な視点で福岡の課題を掘り下げることができました。とても有意義な時間だったと思います。
柔軟な発想が課題解決の近道に
今回はイベントを通じて、行政として企業とフリーランスのマッチングに尽力している参加者のお話や、フリーランスとして複数の企業とかかわりを持つ参加者の実情などを聞くことができました。
国や自治体はこれからの日本において人材の流動性を高める必要性を感じており、経済産業省ではフリーランス活用の補助金を創設する動きを見せています。しかし企業側は正社員を雇用する以外にも選択肢があることに気づいていません。フリーランスの活用という新たな選択肢を企業経営者に知っていただくことが、よりよい社会に向けた第一歩につながるのかもしれません。