こんにちは。ヒラマリです。
本日、「特定受託事業者に係る取引の適正化に関する検討会」報告書が公開されました。
昨年4月に成立したフリーランス新法ですが、詳しくは政省令や規則で定めるとされていた事項がいくつかあり、昨夏から公正取引委員会と厚生労働省でそれぞれ検討会が開催されてきました。
私も両検討会の委員を拝命し、フリーランス新法がフリーランスの取引実態に沿ったルールとなるように、フリーランス当事者の立場から議論に参加して参りました。
厚生労働省の検討会はまだ続いていますが、公正取引委員会の検討会はこの報告書の公開をもって一区切りということで、どのようなことが論点になってきたのか、簡単に報告申し上げます。
なお、報告書はあくまで検討会の議論の経緯をまとめたものであり、「結局どんなルールになるの??」ということについては、もっと分かりやすいガイドラインが公開される予定です。2月にはパブリックコメント募集もなされる予定ですので、その際にまたあらためて新法のポイント解説記事は書きたいと思います。
「特定受託事業者に係る取引の適正化に関する検討会」について
フリーランス新法は、「取引適正化」パートと「就業環境整備」パートで所轄官庁が異なります。公正取引委員会の検討会では「取引適正化」について話し合いました。
具体的には、「取引条件の明示」、「納品完了から原則60日以内の報酬支払期日設定」、「一方的な受領拒否や報酬減額等の禁止」が、「取引適正化」に該当する部分です。
検討会は、2023年8月から12月にかけて、全7回開催されました。全ての検討会の資料や議事要旨は、こちらに公開されています。
前半では、業種によって取引慣習が異なる実態もあることから、様々なフリーランスの業種の業界団体からのヒアリングが行われました。検討会に出席し、お話を聞かせてくださったのは下記の9団体です。
検討会のヒアリングに参加したフリーランス関連業界団体 一般社団法人日本アニメーター・演出協会 協同組合日本イラストレーション協会 全国赤帽軽自動車運送協同組合連合会 全国建設労働組合総連合 一般社団法人日本フードデリバリーサービス協会 一般社団法人緊急事態舞台芸術ネットワーク 一般社団法人ITフリーランス支援機構 特定非営利活動法人日本トレーニング指導者協会 協同組合日本脚本家連盟 |
また、検討会の論点に関わるフリーランスの取引状況や就業環境の実態の把握のため、公取と厚労省が合同で、フリーランス(特定受託事業者)1200名を対象としたアンケート調査を行い、その結果も踏まえて議論がなされました。
令和5年度「フリーランスの業務及び就業環境に関する実態調査」の調査事項 ※調査票はこちら、アンケート結果はこちら ア フリーランスが従事する業務の類型 イ フリーランスが従事する業務の契約期間(具体的な期間) ウ フリーランスが受けた納得できない行為(経験の有無) エ フリーランスにとって取引が継続される期間の傾向(具体的な期間) オ 取引先からの発注の際に記載する事項として、業務遂行上望ましい事項(具体的な事項)* カ 取引先からの発注の際に記載する事項として、発注控えにつながる事項(具体的な事項)* キ 取引先から支払われる報酬の形態(具体的な形態) ク フリーランスが業務の募集情報を閲覧する際、応募先の選定に当たって考慮する事項と実際に応募した際に募集情報と異なる内容が示された事項(具体的な事項) ケ フリーランスが契約を途中で解除された理由(具体的な理由) コ フリーランスが育児介護等の事由が生じた際に発注者に求める配慮の内容と配慮の申出をしづらい事由(具体的な配慮の内容、配慮の申出をしづらい具体的な事由)* サ フリーランスが受けたハラスメント行為の行為主体と行為内容(行為主体と具体的な行為内容) シ 回答者の属性(年齢、性別及び産業) |
「特定受託事業者に係る取引の適正化に関する検討会」の主な論点
新法の取引適正化パートにおいて、法律の下位ルールである政令や規則で決めることになっていた事項は、下記です。
各論点においてどんな話があったのか、フリーランス的に気になるポイントに絞って簡単にシェアします。
・「取引条件明示」でどんな事項を明示義務とするか?
法律の条文に明記されていたのは、「給付の内容(委託する業務の内容)、報酬の額、支払期日等」です。この「等」に何を含めるのか、を決める必要がありました。
特に議論が分かれたポイントは、①お互いの名称(本名)や住所、②諸経費の取扱い、③知的財産権の帰属、④違約金・罰金を明示義務の対象とするかどうか、でした。
私は、①は屋号やハンドルネームで仕事をしているフリーランスの個人情報保護の観点から明示義務にするのはやり過ぎ、②は諸経費の扱いを取引に先立って決めておかないとトラブルの温床になるから明示義務とすべき、③も発注時に予め心づもりしておかないと揉めるから明示義務とすべき、④は違約金・罰金を課すこと自体がそもそも褒められた行為ではないのに明示義務とするのは微妙、という立場でした。
日頃から紛争解決に携わっている弁護士さんたちからすると、本名や住所というのは内容証明を送ったり訴訟提起するために必須であり、私たちを守るためにも明示義務とすべきというお考えの方も多いのは重々理解しているのですが、やはりそこは個人のリスク許容度に委ねて、匿名のハンドルネームで活動している人が取引しづらくならないように配慮する必要があるだろうと思います。
諸経費や知的財産権は、取引の内容によって生じる場合と生じない場合があるため、一律義務とするのは難しいところ、どのような形のルールであればトラブルが防げるのかというところが争点となりました。
結果的には、
①お互いの名称は屋号やハンドルネームでも相手を識別できればOK、
②諸経費を支払う場合は「報酬の額」の一部として諸経費も明示が必要(逆に言えば、明示されていない諸経費は払われないリスクがあるので条件明示の時点で要確認)、
③知的財産権の譲渡・許諾を含んだ発注の場合は、「給付の内容」の一部として範囲を明確に記載することが必要、
④違約金や罰金を明示事項とすると、フリーランスに係る取引では違約金等に関する取決めをすることが通常であるとの誤ったシグナルを送ることとなるため、明示事項にはしない(但し、発注時に明示していなかった違約金や罰金を取ることは、禁止事項の「報酬の一方的な減額」にあたる)
ということになりました。
・取引条件明示の「電磁的方法」とは?
フリーランス新法全体の中で、この「取引条件明示」だけは、フリーランス同士の受発注も対象となります。(フリーランス同士の受発注におけるトラブルも多いのです。フリーランス白書2024で調査結果を公開予定)
つまり、フリーランスであっても、自分が他のフリーランスに対して仕事を依頼するときには、取引条件を明示しないといけないのです。
そのため、フリーランスが日ごろやり取りしているSNSやチャットでのコミュニケーションができなくなるような、ややこしい義務を課すわけにはいきません。もともと法律でも「電磁的方法」はOKになっていましたが、その電磁的方法の範囲が論点になりました。ここはさほど議論が分かれることなく、SNSやチャットでも認めるという賛成意見が多くてホッとしました。
ただ、SNSやチャットだと、後から一方的に削除・編集ができてしまうので(ちなみに最近FBメッセンジャーも事後編集できるようになりましたね)、スクリーンショットを取っておくなどの自己防衛はガイドラインで推奨しましょうということになりました。
・禁止事項の規制対象となる「継続的業務委託」の期間をどう定めるか?
実は、一方的な受領拒否や一方的な減額などを禁止する条文には「政令で定める期間以上の期間行う業務委託をした場合」という文言があります。つまり、一定期間以上の継続的業務委託しか禁止事項の規制対象とならないんですね。
ここは、主に受注者の立場の委員と、発注者の立場の委員の間で、大いに議論がありました。(そもそも下請法はこのような条件付きの禁止事項になっていないところ、フリーランス新法だけにこのような文言が入っていること自体が不思議というか、新法成立にあたって発注者サイドとのバランスに苦慮したことが窺えます。)
昨年の国会答弁では「3~6ヶ月程度を参考に検討する」という政府の発言もありましたが、それでは長すぎです。フリーランス白書2023で聞いた「受注案件の平均的な契約期間」の回答は、単発のスポット取引が32.9%、3か月未満が15.6%、3~6か月未満が11.2%です。つまり、3か月に満たない取引が全体の約半数を占めるため、「継続的取引を3か月以上」とすると、半数の取引が取引適正化の対象外となってしまいます。
そのような実態からも、規制対象外となる期間は極力短くしてほしいと訴えていました。
幸い、検討会開催中に実施されたアンケート調査からも、業務実施期間が「1か月未満」の人が4割ということが明らかになったため、かなり議論はあったものの、最終的には、規定対象となる業務委託の期間は1か月とすることが適当という結論に落ち着きました。良かった。
ということで、主な点に絞ってご紹介しましたが、他にもさまざまな論点で議論がなされていたので、ご興味がある方はぜひ検討会の報告書や資料をご覧ください。
さまざまな立場からの意見に丁寧に耳を傾けながら、フリーランスが安心して取引できるように調整を重ねてくださった公正取引委員会のご担当者の皆様に、この場を借りて深く御礼申し上げます。
「特定受託事業者に係る取引の適正化に関する検討会」最近の開催状況(議題、資料、議事要旨)
なお、厚生労働省の「就業環境整備」の検討会では、募集情報の的確表示、育児介護等との両立配慮義務、ハラスメントに関する体制整備等の措置、中途解除の事前予告が定められています。(議事録や資料の一覧はこちら)
こちらも報告書が公開される頃に解説記事を書きますので、もう少しお待ちください。
こちらもチェック!公正取引委員会Youtubeチャンネル
公正取引委員会のYouTubeチャンネルに「ここに注目!フリーランス新法」と題して、フリーランス法の当事者となる「フリーランス」「中小企業・小規模事業者」「発注事業者」それぞれの方に向けたショート動画(各4分程度)が掲載されています。ぜひご覧ください。
▼フリーランス協会Youtubeでも、フリーランス新法の解説セミナー動画を公開しております。
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